ステークホルダーマネジメントとは

ステークホルダーとは一般に「利害関係者」と訳されます。プロジェクトマネジメントにおいては「プロジェクトをとりまく関係者」がステークホルダーといえます。ここでいう関係者とは、PMやPL、プロジェクトメンバーだけでなく、経営者や部長や課長、協力会社など社外社内を問いません。幅広いプロジェクトの関係者と良好な関係を築きプロジェクトを円滑に進めていくことがプロジェクトマネジメントには求められます。

そのためにステークホルダーとの関係を計画的に管理していく、それが「ステークホルダーマネジメント」です。

プロジェクトにおいては、ステークホルダーとどのように関わるかでプロジェクトが成功するか否かが変わってきます。本コラムではステークホルダーマネジメントの重要性・目的から実施方法を説明します。

目次

ステークホルダーマネジメントの重要性と目的

プロジェクトを成功させるためにはステークホルダーの協力が欠かせません。そのため、ステークホルダーをプロジェクトに巻き込むためにステークホルダーマネジメントが必要です。しかし、現代社会は、高度かつ急速に多様化しており、ビジネスそのものや働き方において、グローバル化・多様化が進んだ結果、ステークホルダーもまた複雑になってきています。

そのため古い考えのプロジェクトの進め方では、予想外の利害関係者が現れて、プロジェクト進行が止まってしまったり、トラブルが発生することもあります。そのために、ステークホルダーマネジメントを策定して、様々な問題を回避することでプロジェクトを円滑に進めていく必要があります。

ステークホルダーマネジメントの重要性

プロジェクトのステークホルダーは、プロジェクトそのものの成功に直接影響を与えるため、彼らの意見や要望を理解し、対応することは非常に重要です。これがプロジェクトのカギと言ってしまっても良いぐらいの重要性を秘めています。なぜここまで重要なのか、大きく3つのポイントがあります。

コミュニケーション改善

ステークホルダーと効果的にコミュニケーションを取ることで、誤解や情報の行き違いを防ぐことができ、プロジェクトチーム内およびステークホルダー間での協力関係を築くことができます。

例えば、プロジェクトメンバーと良好な関係性を築き、品質の良いタスクをまとめたとしても、プロジェクト進行中、決定権を持つ外部ベンダーが急な方針変更を望めば、コストやスケジュールに大幅な遅れが発生しかねません。

このような状況を避けるために、全てのステークホルダーを洗い出しておき、お互いに信頼関係を構築しておくことで、突発的な方針変更などのイレギュラーも事前に情報をキャッチし、リスク軽減を図ることが可能となります。

リスクの軽減

ステークホルダーのニーズや期待を無視すると、抵抗や反発が生じる可能性があり、これがプロジェクトの進行を妨げるリスクとなりえます。ステークホルダーマネジメントを通じてこれらのリスクを事前に識別し、軽減することが可能となります。

プロジェクト調整

ステークホルダーからの意見のフィードバックを取り入れることで、プロジェクトの方向性を適切に調整し、より良い成果を生むことが可能となります。どのプロジェクトならどのステークホルダーに、というように管理していると、初動が早くプロジェクトがスムーズに進みます。

ステークホルダーマネジメントの目的

ステークホルダーマネジメントは、ステークホルダーと良好な関係を築くために実施します。普段から密にステークホルダーとコミュニケーションを取ることで、プロジェクトの成果を最大化することができます。ステークホルダーマネジメントは以下のいくつかの目的があります。

ステークホルダーの特定と分析

プロジェクトに関与する全てのステークホルダーを特定し、彼らの関心や影響度を分析することで、どのステークホルダーがプロジェクトにどのように関わるかを明確にする必要があります。特定のステークホルダーは、プロジェクトに対してどのような考えを持っているのか。前向きなのか、後ろ向きなのか、中立なのかというスタンスを正確に把握しているか否かが、実際のプロジェクト進行に大きな影響を与えます。つまり、ステークホルダーがプロジェクトの潤滑油になるか、障害になるかどうかの見極め作業です。

ステークホルダーの考え方を分析するとき、同時に影響力の大きさも調べておくとよいでしょう。ステークホルダーがプロジェクトにどれだけ関心があるか、決済や決定を下す力をどれだけ持っているかなどを把握することで、プロジェクト進行中の連絡に対しての優先度や時間、手間のかけ方が明確になっていきます

コミュニケーション計画の策定と期待の管理

ステークホルダーそれぞれに適したコミュニケーション計画を策定し、必要な情報を適切なタイミングで提供することも目的の一つです。ステークホルダーの期待を理解し、現実的な目標と調整することで、プロジェクトの成果に対する満足度を高めることができます。

問題解決とフィードバックならびにエンゲージメントの促進

ステークホルダーからのフィードバックを積極的に取り入れ、発生する問題や懸念を早期に解決することを目指します。ステークホルダーの関与を高めることで、彼らがプロジェクトの一部として積極的に参加し、協力する意欲を引き出すことができます。

プロジェクト進捗状況を共有する

プロジェクトは多数の人が関わります。そのため、やるべきことは何か、各チームのタスクがどのように進捗しているのかを関係者間で共有する必要があります。例えば課題管理では、プロジェクトで起こっている問題の共有やスケジュール等をメンバーに共有し、次に自身が何をいつまでにやらないといけないのか、ほかのチームが行っている作業に疑義があったら指摘する等を行いながら推進する必要があります。

ステークホルダーのマネージメントがプロジェクト成功の鍵

ステークホルダーと適切なタイミングで適切なコミュニケーションをとることで、プロジェクトの成功率は高まります。それには、適切なマネージメントが重要です。ステークホルダーの特定や分析、管理をしていく必要があります。

ステークホルダ分析は、プロジェクト開始時に実施すべし

ステークホルダーを正確に分析しておくことでプロジェクトが成功する可能性が高まります。

早い段階でより多くのステークホルダーを特定し、様々なステークホルダーから承認やサポートを得られるようにコミュニケーションを調整することで、よりプロジェクトがスムーズにもなります。

そのためには、経営者や部長、プロジェクトオーナーやエンジニア、営業、マーケティング、法務、財務、カスタマーサクセスなど、どれだけの組織や人が利害関係にあるのを突き止める「ステークホルダー分析」はプロジェクトの開始時にやっておくことが大切です。

どのようにステークホルダー分析を行うのか?

ステークホルダー分析の実施方法は、企業や業界、実施するチーム(プロジェクトマネジメントとプロダクトマネジメントなど)によって異なります。しかし、この種の分析のほとんどに共通する有用なステップがあります。ここでは、多くの組織がステークホルダー分析を行う方法を紹介します。

利害関係者の洗い出し

利害関係者の洗い出し方法にはいくつかありますが、代表的な方法としてプロジェクトの影響を受ける可能性のある全ての関係者を分析し特定する「利害関係者分析」と、関連する全てのステークホルダーを図式化して視覚的に整理する「ステークホルダーマッピング」を用いられることが多くあります。

これらの方法を組み合わせることで、プロジェクトに影響を与える可能性のある全てのステークホルダを効果的に洗い出すことができます。

ステークホルダーの特定

まずステークホルダーを洗い出すことから始めます。プロジェクトに影響を与える人物だけでなく、組織もリストアップしていき、利害関係・影響度の大小をまとめていく作業になります。このとき、ただステークホルダーの名前を集めるのではなく、役割や影響度とともにプロジェクトを進める人全員で情報を共有することが重要です。このような洗い出し作業をすることで、プロジェクトの進行中にどのステークホルダーとどのようなコミュニケーションをとっていけばいいかがわかりやすくなります。

ステークホルダーは、直接的ステークホルダーと間接的ステークホルダーの2種類に分けることができます。

直接的ステークホルダー

企業の活動に直接的に影響をもたらす存在を、直接的ステークホルダーと呼びます。顧客や消費者のような人物はもちろん、所属する従業員、取引先や株主など、企業に対して意思決定権を持つ人などが対象です。

間接的ステークホルダー

企業の活動に対して直接的ではなく、間接的に影響を与える存在を間接的ステークホルダーと呼びます。該当しているのは労働組合、従業員の家族、行政機関、自治体や地域社会などです。一時的もしくは間接的に影響をもたらす存在のため、直接的ステークホルダーと異なり意識しづらい存在です。しかし、非常に重要な影響をもたらすこともあるため、間接的ステークホルダーにも細やかな目配りをしておく必要があるでしょう。

ステークホルダエンゲージメント計画書の作成

各ステークホルダーのニーズや期待を理解し、彼らの関与を計画するプロセスです。エンゲージメント戦略を策定し、ステークホルダーと効果的にコミュニケーションを取るための方法を計画を策定します。

ステークホルダー関与度評価マトリックス

ステークホルダーを特定したあとは、現在の関与度と望ましい関与度を比較したマトリックスの「ステークホルダー関与度評価マトリックス」が便利です。PMBOKでは「ステークホルダーの現在の関与度と望ましい関与度を比較したマトリックス」と定義されています。ステークホルダー関与度評価マトリックスを作成するメリットは コミュニケーションのギャップや期待値の齟齬を早期に発見できるところです。

縦に各ステークホルダーの名前を、横に関与度をとって作成します。
関与度は不認識抵抗中立支援型指導の5つに分けられます。それぞれの関与度が意味するものは以下の通りです。

不認識:プロジェクトの存在も与えている影響にも気が付いていない。
抵抗 :プロジェクトの存在にも与えている影響にも気が付いているが、プロジェクトの作業や成果を支持していない。
中立 :プロジェクトの存在にも与えている影響にも気が付いているが、支持も抵抗もしていない。
支援型:プロジェクトの存在にも与えている影響にも気が付いており、作業と成果を支持している。
指導 :プロジェクトの存在にも与えている影響にも気が付いており、プロジェクト成功に向けて積極的に取り組んでいる。

これら5つの関与度と各ステークホルダーで表を作り、各セルには“C”と“D”の2つの英単語を記入していきます。


C(現在のレベル) :ステークホルダーの現在の関与度。
D(望まれるレベル):プロジェクト達成のためにステークホルダーに望まれる関与度。

ステークホルダー関与度評価マトリクスでいえば、ステークホルダーを望ましい関与度であるDの位置にもっていくことが重要です。理想は、ステークホルダー関与度評価マトリックスを作った際にCとDの文字が同じセルの中に入っていることです。

エンゲージメントの管理、監視

ステークホルダの関与状況を監視し、エンゲージメント戦略の有効性を評価するプロセスです。必要に応じてエンゲージメント計画を調整し、ステークホルダのニーズや期待に対応し、常にアップデートしていきます。

まとめ

ステークホルダーは「人」です。そのため、計画通りにはいかない・・ということの方が多いです。それでも計画を立ててどのように関わるのか、関わらないといけないのかを明確にしておくことで、プロジェクトの成功をグッと近づけます。

プロジェクトは一人では推進できません。ステークホルダーが協力し合って進めていけるように、密なコミュニケーションを図り、情報を共有し、タスクやメンバーの役割を明確にして、一丸となって推進していきましょう。

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