多すぎるプロジェクトを整理する|経営とPMOで実践するプロジェクトポートフォリオ管理

DX推進、基幹システムの刷新、業務改善、セキュリティ対応。全社で走るプロジェクトの数が、いつの間にか二桁を超えている。そんな組織は珍しくありません。ところが数が増えるほど、同じエンジニアの奪い合いが起き、優先順位は会議のたびに入れ替わり、どれも中途半端に遅れていく。個々のプロジェクトは真面目に管理されているのに、組織全体で見ると成果が積み上がらない。この「頑張っているのに前に進まない」感覚の正体は、プロジェクトを1本ずつ管理する視点のままで、複数プロジェクトを組織の投資として束ねる視点を持てていないことにあります。

本コラムは、複数プロジェクトの同時推進に悩むIT統括責任者・PMO責任者に向けて、プロジェクトポートフォリオ管理という「経営としてのプロジェクト整理術」を解説します。並走管理のテクニックではなく、どのプロジェクトに人と金を割り当て、どれをいったん止めるかを、経営とPMOがどう仕組みで支えるか。その設計図を示します。

📚 このブログから学べること
  • プロジェクト/プログラム/ポートフォリオという3階層の違いと、なぜ「並走管理」では破綻するのか
  • 複数プロジェクトが同一リソースを奪い合うと、遅延がどう連鎖・悪化していくのかの構造
  • 戦略整合度・ROI・リスク・緊急度でプロジェクトを採点する優先順位付けのモデル例
  • 「選択と集中」で止められない問題(サンクコスト・社内政治)への中止基準の設計
  • 誰が決め、PMOは何を支えるのか。意思決定と支援機能の役割分担
  • 全プロジェクトの稼働・優先順位・進捗を経営会議に見せる報告フォーマットの作り方
目次

1. プロジェクトポートフォリオ管理とは何か|3階層で捉え直す

まず言葉を正確に押さえます。ここが曖昧なまま「ポートフォリオ管理を導入しよう」と走ると、単なるプロジェクト一覧表づくりで終わってしまうからです。PMIが発行するPMBOK Guideでは、プロジェクトに関わるマネジメントを、扱う対象の粒度によって3つの階層に整理しています。この3階層の違いを、まず腹落ちさせておきましょう。

1-1. プロジェクト・プログラム・ポートフォリオの違い

3つの言葉は似ていますが、目的がまったく異なります。プロジェクトとは、独自の成果物・サービス・結果を生み出すための有期的な活動です。始まりと終わりがあり、「基幹システムを刷新する」のように成果物を作り切ることが主眼になります。いわば「一つの山を登り切る」活動です。

これに対しプログラムは、個別に管理していては得られないベネフィット(便益)を実現するために、相互に関連する複数プロジェクトを調整して束ねる単位です。ここで誤解が多いのですが、プログラムは「大きいプロジェクト」ではありません。たとえば「顧客体験の刷新」というベネフィットに向けて、ECサイト改修・コールセンター統合・会員基盤整備という関連プロジェクトをまとめて運ぶ。個々のシステムが完成すること自体ではなく、それらが噛み合って生む「顧客体験の向上」という便益に主眼がある単位です。

そしてポートフォリオは、戦略目標を達成するために、プロジェクト・プログラム・定常業務をグループとして管理する単位です。主眼は「どれを実施し、どれをやめ、限りある投資をどう最適配分するか」。金融の資産運用ポートフォリオと同じ発想で、有望なものに厚く、リスクの高いものは配分を絞る。企業のIT投資全体を一つの運用対象として眺める視点だと考えると、映像化しやすいはずです。PMIが発行するポートフォリオマネジメントの標準でも、ポートフォリオは戦略との整合と投資配分の最適化を図る単位と位置づけられています。ポートフォリオを「プロジェクトの一覧表」と捉えるのは典型的な誤りで、一覧表は道具にすぎず、本質は投資配分の意思決定にあります。

📌 ポイント
プロジェクト=成果物を作り切る/プログラム=関連プロジェクトを束ねて便益を出す/ポートフォリオ=戦略に沿って投資を最適配分する。ポートフォリオ管理の主語は「戦略と投資」であり、「一覧表の作成」ではありません。

プロジェクト・プログラム・ポートフォリオは独立した概念ではなく、下から積み上がる3階層の構造です。各層で「何に主眼を置くか」が明確に異なります。

プロジェクト・プログラム・ポートフォリオの3階層ピラミッド 下層:プロジェクト(成果物の創出)、中層:プログラム(便益の実現)、上層:ポートフォリオ(投資配分の最適化)を示す階層ピラミッド図 プロジェクト プログラム ポートフォリオ 主眼:成果物の創出 期限・予算内に成果物を作り切る 主眼:便益(ベネフィット)の実現 関連プロジェクトを束ね成果を引き出す 主眼:投資配分の最適化 どれを実施しどれを止めるかを決める 下位層 中間層 上位層

1-2. なぜ複数プロジェクトの同時推進は破綻するのか

プロジェクトが2〜3本のうちは、各PMが個別に頑張れば回ります。ところが本数が二桁に近づくと、個別最適の総和が全体最適にならない現象が起きます。皆さまの現場でも、心当たりはないでしょうか。破綻は主に3つの構造が絡み合って進みます。

第一にリソース競合です。優秀なアーキテクトやデータベース技術者は組織に数人しかいません。その希少人材を、DX案件も基幹刷新も同時に「必須」として奪い合う。結果、誰もが複数案件を掛け持ちし、コンテキストスイッチ(頭の切り替え)のたびに生産性が削られます。人を増やせない前提では、片方を優先すればもう片方が待たされる、というゼロサムの構造がここにあります。

第二に連鎖遅延です。掛け持ち者が一つの案件で遅れると、その人を待つ別案件も後ろにずれます。プロジェクトAの遅れがプロジェクトBを、BがCを押す。ドミノ倒しのように遅延が伝播し、当初は独立していたはずの案件群が「連動して沈む」船団になります。

第三に優先順位の混乱です。全社の判断基準がないと、優先順位は「声の大きい役員の案件」や「今いちばん炎上している案件」でその都度決まります。先週最優先だった案件が今週は後回しになり、現場は方針の揺れに振り回される。この3つは独立して起きるのではなく、リソース競合が連鎖遅延を生み、遅延が優先順位の再混乱を招く、という悪循環として相互に悪化していきます。だからこそ、個々のプロジェクト管理の巧拙ではなく、組織としての交通整理=ポートフォリオ管理が必要になるのです。

⚠️ 注意
「各PMが優秀なら全体もうまくいく」は誤りです。個別最適を積み上げても、リソースの奪い合いと連鎖遅延がある限り全体は最適化されません。全社を俯瞰して配分を決める仕組みがないこと自体が、遅延の根本原因になり得ます。

2. 優先順位付けの判断基準|勘ではなくスコアで整理する

「選択と集中が大事」とは誰もが言います。しかし、いざ止める案件を決めようとすると、どれも担当役員がいて、それぞれに事情がある。ここで必要なのが、感覚や声の大きさではなく、共通のものさしで全案件を横並びに採点する仕組みです。プロジェクトポートフォリオ管理の中核は、この優先順位付けの標準化にあります。

2-1. 4つの評価軸とスコアリングモデルの例

優先順位を定量化するとき、実務でよく使われる観点は4つに集約できます。戦略整合度(会社の中期戦略にどれだけ直結するか)、ROI・投資対効果(投じる人日・費用に対して得られる便益)、リスク・実現性(技術・体制・依存関係の不確実性)、緊急度(法規制対応や納期など、後回しにできない度合い)です。この4軸に重み付けをして各案件を採点し、合計点で並べ替えると、感情論を排した「たたき台の序列」ができあがります。

下表は、その採点シートの一例です。表を眺める前に読み方を補足します。ポイントは、重み(%)を先に経営と合意しておくこと。重みは「わが社が今、戦略とスピードのどちらをより重視するか」という経営の意思そのものだからです。案件ごとの点数の付け方で揉める前に、ものさしの目盛りを決めておくと、議論が「好き嫌い」から「基準への当てはめ」に変わります。

評価軸 重み(例) 見る観点 5点=高い場合の目安
戦略整合度 35% 中期経営計画・全社戦略との直結度 経営の最重点テーマに不可欠
ROI・投資対効果 25% 投下人日・費用に対する便益と回収時間軸 短中期で明確な効果が見込める
リスク・実現性 20% 技術難度・体制・他案件への依存 実現手段が確立し不確実性が低い
緊急度 20% 法規制・契約・納期など後回し不可の度合い 期限を逃すと重大な不利益が発生

採点は各軸を1〜5点で付け、重みを掛けて合算します。たとえば戦略整合度5点・ROI4点・リスク3点・緊急度2点の案件なら、5×0.35+4×0.25+3×0.20+2×0.20=3.55点、という具合です。数字はあくまで議論の出発点であり、最終的な序列は経営の判断で調整して構いません。採点は、案件スポンサーが自案件を付け、経営層が全体視点で校閲、PMOが集計して案件間の差異を可視化する、という分担が現実的です。自己申告だけだと点数がインフレしがちなので、第三者の校閲を挟むのがコツです。大切なのは、なぜその案件が上位・下位なのかを、点数という共通言語で説明できるようにすることです。

✅ 実践ポイント
スコアは「決定」ではなく「議論のたたき台」と位置づけると導入がスムーズです。点数で機械的に切るのではなく、点数を見ながら経営が最終判断する。この順序を守ると、現場の納得感が保たれます。

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2-2. DX案件と業務改善案件が同じ土俵で競合する問題

大企業のポートフォリオで悩ましいのが、性質の違う案件を同じスコアで比べにくいことです。とりわけDX推進案件と、足元の業務改善案件は、効果の出方が根本的に異なります。業務改善は「この帳票をなくせば月何十時間削減」と効果が読みやすく、回収も早い。一方でDXは、効果の発現に時間がかかり、しかも不確実性が高い。同じROIのものさしで単純比較すると、短期で効果の読める業務改善ばかりが上位に来て、中長期の競争力を作るDXが後回しになりがちです。毎四半期そうやって後ろへ回され続けたDX案件が、着手されないまま実質的に立ち消えになる。そんな「静かな破綻」は、多くの組織で起きています。皆さまの会社では、種まき案件はきちんと守られているでしょうか。

この偏りを防ぐには、時間軸と不確実性を評価に織り込む工夫が要ります。たとえばポートフォリオを「短期の刈り取り」「中長期の種まき」「法規制対応」といった枠(バケット)に分け、それぞれに投資の枠を先に配分しておく。そのうえで枠内で優先順位を競わせれば、種まき案件が刈り取り案件に押しつぶされずに済みます。なお枠ごとの比率(たとえば刈り取り6・種まき3・法規制1、といった配分は一例)は、経営が中期計画に照らして決めるものです。PMOは比率を勝手に決めるのではなく、比率設定の議論をファシリテートし、合意された比率をスコアリングの前提条件として組み込む役に徹します。ここで公的な補助線として、経済産業省・IPAのDX推進指標が使えます。これはDXの取り組み状況や課題を関係者で共有するための自己診断ツールで、案件の優先順位を直接決める道具ではありません。使う際は、診断を行う場と結果の共有範囲を先に決めてから着手すると、目的がぶれません。「自社のDXが今どの段階か」を可視化することで、種まき枠にどれだけ投資すべきかを経営で議論する際の共通認識づくりに役立ちます。

📋 この章のまとめ
優先順位は4軸(戦略整合度・ROI・リスク・緊急度)に重み付けして採点し、たたき台の序列を作る。ただし効果の時間軸が違うDXと業務改善は同じ土俵で単純比較せず、投資枠を分けて配分すると、短期案件への偏りを防げます。

3. 選択と集中の実務|止める仕組みをどう設計するか

優先順位を付ける以上に難しいのが、下位に沈んだ案件を実際に「止める」ことです。始めるのは一つの決裁で済みますが、止めるには関係者の面子や、これまで投じた費用への未練が絡みます。ここを仕組みにしておかないと、ポートフォリオはただ膨らみ続けます。

3-1. サンクコストと社内政治で止められない構造

案件が止められない理由の代表格がサンクコスト(埋没費用)です。「これだけ投じたのだから、今さらやめられない」という心理は、意思決定を過去に縛りつけます。皆さまの現場にも、そうやって延命している案件はないでしょうか。しかし冷静に見れば、既に使った費用は戻りません。判断すべきは「これから先の投資が、他の案件に回すより価値を生むか」であって、過去にいくら使ったかではない。この当たり前が、当事者になると驚くほど見えなくなります。

もう一つが社内政治です。案件にはたいてい旗を振った役員がいて、中止はその人の判断が誤りだったと突きつけるように受け取られかねません。だからこそ、個人の面子と切り離せるあらかじめ合意された中止基準が要ります。「特定の指標を下回ったら見直す」というルールを事前に全社で決めておけば、中止は「誰かの否定」ではなく「ルールの適用」になります。人を責めない構造を先に作っておくことが、選択と集中を実行に移す鍵です。

3-2. 継続判定ゲート(ステージゲート)の作り方

止める仕組みの具体策が、継続判定ゲート(ステージゲート)です。ステージゲートとは、プロジェクトを段階(ステージ)で区切り、各段階の終わりで続行してよいかを判定する仕組みで、フェーズゲートとも呼ばれます。プロジェクトを一気通貫で走らせるのではなく、企画・設計・開発といった節目にゲート(関門)を置き、そのたびに「続行・修正・中止」を判定します。各ゲートで「当初の前提はまだ有効か」「便益の見込みは崩れていないか」を問い直す。前提が崩れた案件を早い段階で見直せるので、ずるずると傷を広げずに済みます。次の表は、ゲートで確認する観点の例です。表の後に、運用上の勘所を補足します。

確認観点 問い 中止・見直しのサイン
戦略前提 開始時の戦略的位置づけは今も有効か 市場・戦略の変化で目的が陳腐化
便益見込み 期待した効果は依然見込めるか 効果試算が開始時から大きく悪化
コスト・工期 残投資は効果に見合うか 残コストが見込み便益を上回る
実現性 技術・体制の見通しは立っているか 重大な技術・体制課題が未解決のまま

運用のコツは、ゲートの判定者を案件の推進責任者と切り離すことです。自分が旗を振った案件を、自分自身で「中止」と判定するのは酷であり、公正さも保ちにくい。だからゲート判定は、後述する経営レベルの意思決定会議で行い、PMOはそこに客観的な材料(前提の変化・効果試算の推移)を揃えて出す。判定者と推進者を分けることで、中止判断が個人の胸先三寸ではなく、組織のルールとして機能します。

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4. リソース配分と可視化|PMOが支える仕組み

優先順位と中止基準を決めても、それを日々の人の割り当てに落とし込み、状況を経営に見せ続けなければ絵に描いた餅になります。ここでPMO(プロジェクト管理を専門に支援する社内組織・機能)の出番です。ただし役割の線引きを誤ると、PMOが越権していると受け取られます。誰が決め、PMOは何を支えるのか。この分界を明確にしていきます。

4-1. キャパシティプランニングで配分を定量化する

リソース競合を可視化する基本手法がキャパシティプランニングです。各人・各チームが月にどれだけの工数(人日・人週)を提供できるかという「供給」と、全案件が求める工数という「需要」を突き合わせ、どこで能力を超えているかを見える化します。難しい概念ではなく、家計簿の収支合わせのプロジェクト版だと考えると分かりやすいはずです。

実務では山積み図を使います。横軸に時間、縦軸に工数を取り、案件ごとの必要工数を積み上げると、特定の月にキャパシティの上限線を突き抜ける「山」が見えます。この突き抜けた部分こそがリソース競合の正体で、放置すれば連鎖遅延の火種になります。山が見えれば、対策は「案件の時期をずらす(山崩し)」「一部を外部委託する」「優先度の低い案件を後ろへ回す」といった具体的な選択肢に落ちます。数字で見えて初めて、経営は「今は物理的にこれ以上載らない」という現実を共有できるのです。

山積み図では、横軸に時間(月)、縦軸に工数を取り、案件ごとの必要工数を積み上げます。キャパシティ上限を超えた月が、リソース競合の発生箇所です。

キャパシティプランニング 山積み図(月別工数の積み上げとキャパシティ上限) 1月から6月の月別工数を案件A・B・Cで積み上げた棒グラフ。3月・4月はキャパシティ上限80人日を超えており、逼迫箇所として強調している。 0 20 40 60 80 100 工数(人日) 上限 (80人日) 逼迫 逼迫 1月 2月 3月 4月 5月 6月 案件A 案件B 案件C キャパシティ上限

4-2. 経営会議に見せる報告フォーマット

ポートフォリオ管理は、経営が定期的に状況を見て舵を切ってこそ回ります。そのためにPMOが用意するのが、全案件を一枚で俯瞰できるポートフォリオ・ダッシュボードです。個別プロジェクトの詳細な進捗表を経営会議に持ち込むと、情報過多で肝心の判断ができません。経営が知りたいのは細部ではなく、「全体としてどこに投資が偏り、どこが危ないか」です。次の観点を1枚に集約すると、意思決定の解像度が上がります。

具体的には、各案件の優先順位(スコア)・進捗ステータス(順調/要注意/危険の3色)・リソース稼働率・次のゲート判定時期を、一覧で並べます。3色の信号で危険案件を一目で分かるようにし、リソース稼働率で「どのチームが逼迫しているか」を示す。これにより経営会議は、報告を聞く場から、優先順位を組み替え、止める案件を決める「意思決定の場」へと変わります。ツールは専用製品でなくてもよく、ExcelやスプレッドシートでもPMOは十分に運用できます。どのツールを使うかより、フォーマットを統一し月次で欠かさず更新し続けることのほうが、はるかに重要です。この報告サイクルを月次や四半期で回すことが、ポートフォリオを生きた仕組みにします。可視化する指標をどう設計するかは、KPIの考え方と密接に関わります。

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指標の設計をより深く知りたい方は、プロジェクトマネジメントのKPI設定の解説をご覧ください。ダッシュボードに載せる指標の選び方の参考になります。

4-3. 決めるのは経営、PMOは枠組みを支える

ここが本コラムでもっとも強調したい点です。プロジェクトの優先順位の最終判断や投資の決定は、経営スポンサーと業務オーナーが行います。PMOがそれを代行するのではありません。PMOの役割は、判断に必要な評価基準・KPI・可視化の枠組みを整え、案件を比較可能な形に揃え、進行管理の仕組みを回すこと。いわば意思決定の「土台と補助線」を提供する支援機能です。

ここでよく問題になるのが、権限を持たない支援型PMOが「報告書は作るが誰も従わない」状態に陥るケースです。PMOには、PMBOK Guide 第6版(第5版から示された分類)でいう支援型(Supportive)・管理型(Controlling)・指揮型(Directive)の3類型があり、組織への関与度と権限の強さが異なります。関与度の低い支援型のまま全社の優先順位調整を担わせても、機能しにくい。対策は、PMOに権限を持たせることではなく、意思決定の権限は経営会議に置き、その会議が使う土台をPMOが用意するという設計にすることです。決定権は経営、材料と運営はPMO。この分担を明文化しておくと、PMOが越権も無力化もせずに機能します。皆さまの組織では、この線引きは明確になっているでしょうか。

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PMOとPMの役割の違いや連携のあり方は、混同されがちなPMOとPMの違いと連携で詳しく解説しています。支援機能としてのPMOの位置づけを整理したい方に。
📋 この章のまとめ
キャパシティプランニングと山積み図でリソース競合を数字にし、ダッシュボードで経営に見せる。ただし決めるのは経営スポンサーと業務オーナーで、PMOは評価基準・KPI・可視化という土台を提供する支援機能。決定権と支援役を明確に分けることが、仕組みを機能させます。

5. ガバナンスと体制|仕組みを定着させる統制設計

ここまでの優先順位付け・中止基準・可視化を、その場限りにせず組織のルーティンとして定着させる。それを担うのがガバナンス設計です。仕組みは作った瞬間から風化していきます。だからこそ、誰がいつ何を判断するかを制度として固めておくのです。

5-1. 意思決定の権限と報告ラインを制度化する

ポートフォリオ管理を回すには、意思決定の器が要ります。多くの企業では、経営層を中心としたポートフォリオ会議(投資委員会)を月次または四半期で設け、そこで新規案件の承認・優先順位の見直し・ゲート判定・中止決定を行います。重要なのは、この会議に何をどの粒度で上げ、誰が最終承認するかという権限と報告ラインを、あらかじめ文書で定めておくことです。ルールが曖昧だと、結局は会議のたびに「誰が決めるのか」から議論が始まり、意思決定が漂流します。

こうした統制の枠組みを、経営との合意のもとで設計・運用するのは、PMOの中核的な貢献領域です。権限規程の中身そのものを経営に代わって決めるのではなく、たたき台を整え、報告フォーマットや会議体の運営設計を用意して、経営が判断に集中できる場を作る。ガバナンスは官僚的な縛りではなく、判断を速く公正にするための舗装された道だと捉えると、その価値が見えてきます。

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統制の仕組みづくりの全体像は、プロジェクトマネジメントガバナンス|PMOが構築する統制の仕組みで解説しています。権限・報告ライン・基準の設計を深掘りしたい方へ。

5-2. PMOの類型と段階的な移行シナリオ

最後に、自社のPMOをどう育てるかです。前述のとおりPMOには支援型・管理型・指揮型の3類型がありますが、いきなり強い権限を持つ形を目指すと、現場の反発を招いて空回りします。現実的なのは段階的な移行です。まずは支援型として、テンプレートや可視化ツール、共通の評価基準を提供し、現場に「PMOがいると楽になる」という信頼を作る。この段階で無理に準拠を強制しないのが肝心です。

信頼が育ったら、標準への準拠状況を確認する管理型の機能を少しずつ加えます。移行の判断目安は「言いっぱなし」にせず持っておくとよいでしょう。支援型から管理型へは、提供したテンプレートが多くの案件で自然に使われ、PMOへの相談件数が増えてきたら加えどきです。指揮型は、経営がPMO基準への準拠を明確に必要と判断した場合に限って選ぶ、と考えれば足ります。どの類型が正解かは組織の成熟度と文化しだいで、一律に指揮型が優れているわけではありません。自社が今どの段階で、次にどこへ進むべきか。その見取り図を持つことが、PMO立ち上げの遠回りを防ぎます。

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組織としての推進体制の作り方は、プロジェクトマネジメント体制構築の極意もあわせてご覧ください。体制設計の具体像を補完できます。

6. 結論:並走管理から、戦略に直結した投資の最適化へ

複数プロジェクトが遅れていく組織に足りないのは、個々のプロジェクト管理の腕ではありません。多くの場合、真面目に各案件を管理してもなお全体が沈むのは、プロジェクトを1本ずつ見る視点のまま、組織の投資全体を束ねる視点を欠いているからです。ここまで見てきたプロジェクトポートフォリオ管理は、その視点を仕組みに変える営みでした。

要点を振り返ります。3階層を区別してポートフォリオを投資配分の単位と捉え直す。4軸のスコアで優先順位のたたき台を作る。中止基準と継続判定ゲートで「止める」を仕組みにする。キャパシティプランニングとダッシュボードで競合と状況を可視化する。そして権限は経営会議に置き、PMOはその土台を支える。この一連を制度として定着させることが、複数プロジェクトの同時推進を組織の競争力へ変える道筋です。

優先順位や投資を決めるのは経営であり、PMOはあくまで評価基準・KPI・可視化の枠組みを提供する支援機能です。しかし、その土台の質こそが意思決定の質を左右します。では、明日から何に着手すればよいのか。壮大な制度づくりに構える前に、次の3ステップから始めると動き出しやすいはずです。

  1. 全案件をリスト化する:走っている案件を、担当役員・現在フェーズ・月次の工数見込み・期待効果の4項目で各1行ずつ書き出す。まず全体を1枚に載せることが出発点です。
  2. リソースの逼迫箇所を特定する:キャパシティの山積み図を描き、どの月・どのチームが供給能力を超えているかを可視化する。連鎖遅延の火種がここで見えます。
  3. ゲート基準を合意し会議体を立ち上げる:続行・中止の判定基準を経営と合意し、月次または四半期のポートフォリオ会議を設ける。これで「決める場」ができます。

①のリストと②の山積み図は、次の経営会議にそのまま持ち込める材料になります。設計に迷いがあれば、外部の知見を使うのも一つの手です。まずは現状を一枚の絵に描き出すところから、始めてみてください。

プロジェクトの課題は、一人で抱え込む必要はありません。

大手プライム案件で培ったPMO実務の経験から、現状整理のお手伝いをいたします。

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📚 参考文献・出典
・Project Management Institute「PMBOK Guide(A Guide to the Project Management Body of Knowledge)」第6版(第5版から記載)― PMOの3類型(支援型・管理型・指揮型)の定義に使用
・Project Management Institute「PMBOK Guide」第7版(原則ベース)― プロジェクト/プログラム/ポートフォリオという3階層の考え方の参照に使用
・Project Management Institute が発行するポートフォリオマネジメントの標準(The Standard for Portfolio Management)― ポートフォリオを戦略・投資配分の単位として捉える考え方の典拠
・経済産業省・IPA(情報処理推進機構)「DX推進指標」https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html ― DXの現状・課題を関係者で共有する自己診断ツール。種まき枠への投資を経営で議論する際の共通認識づくりに使用
※引用した資料のみ記載し、各URLは公開時点で実在を確認すること。標準の版数は原典で最終確認する。
監修:株式会社オーシャン・コンサルティング コンサルティング部
ITプロジェクトに特化したPMO専門組織です。プロセス定義・標準化・可視化・レポーティング環境の整備まで支援し、多数のPMO導入実績を有します。
コンサルタントには「PMP」取得を義務付けています。

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