プロジェクト成功の土台!PMOが教えるプロジェクトマネジメント体制構築の極意
プロジェクトが計画通りに進まない。意思決定が遅れて手戻りが発生する。役割分担が曖昧で責任の所在が不明確。こうした課題に直面していませんか。
PMI日本支部のPMO研究会による調査では、PMOを導入している企業のうち約53%が「教訓が次のプロジェクトに活かされていない」、約39%が「経営戦略とプロジェクト目標の整合性を取る仕組みがない」と回答しています(出典:PMI日本支部PMO研究会「PMO研究会ご報告」2023年)。また、日経コンピュータによる「ITプロジェクト実態調査2018」では、1,745件のシステム導入・刷新プロジェクトを分析した結果、成功率はわずか52.8%。約半数のプロジェクトが失敗に終わっています。
これらの課題の根本原因は、プロジェクト体制の設計不足にあります。本記事では、PMO専門企業が大手企業のプライム案件で実践している体制構築の標準プロセスを解説します。役割定義、意思決定プロセス、報告ライン、会議体設計まで、プロジェクトを成功に導く体制構築の極意をお伝えします。
1. プロジェクト体制構築の重要性
プロジェクトの成否は、立ち上げ段階での体制設計によって大きく左右されます。適切な体制が構築されていないと、プロジェクトは必然的に混乱へと向かいます。
1-1. 体制不備がもたらすプロジェクトの混乱
体制が整っていないプロジェクトでは、典型的な問題が繰り返し発生します。役割分担が曖昧なため、誰が何をすべきか不明確になります。意思決定の権限者が定まっていないため、判断が遅れます。報告ラインが複雑化し、情報が滞留します。
PMBOKガイド第7版では、協働的なプロジェクトチーム環境を構築することが12の原理・原則の一つとして掲げられています。同ガイドは「プロジェクト・チームは、プロジェクト作業と関連付けて個々人の作業を調整しやすくなるような構造を使用し、テーラリングし、導入する」と明記しています。
⚠️ 体制不備の典型的症状
- 同じ作業を複数メンバーが重複して実施
- 誰も担当していない作業の発生
- 意思決定が先送りされる
- 情報が特定メンバーに偏在する
- エスカレーションルートが不明確
1-2. PMBOK第7版が示す組織構造の原則
PMBOK第7版は、従来のプロセス重視のアプローチから脱却し、より柔軟で成果志向のプロジェクトマネジメントに焦点を当てています。組織構造においては以下の3つの要素が重要とされています。
役割と責任の明確化:組織内にどのような役割を置き、それぞれがどんな責任を負うのかを明確に定義することです。権限、説明責任、実行責任を具体的に示します。
適切なメンバーの割り当て:定義した各役割に適切なメンバーをアサインすることです。従業員だけでなく外部パートナーや一時的な参加メンバーも含めて検討します。
委員会の設置:プロジェクトの規模に応じて、目標達成を監督する上位組織としての委員会を設置します。これにより、現場が作業に没頭するあまり最終目標を見失うことを防ぎます。
PMBOKガイド第7版の12の原理・原則
体制構築に特に関連する原則として、「協働的なプロジェクト・チームを構築すること」「ステークホルダーと効果的に連携すること」「チームを育成すること」「リーダーシップを発揮すること」が挙げられています。これらは単なる理想ではなく、プロジェクト成功のための実践的指針です。
2. 体制構築の5つの基本原則
効果的なプロジェクト体制を構築するには、普遍的な原則に基づいた設計が必要です。ここでは、PMO専門企業が実践している5つの基本原則を解説します。
2-1. 役割と責任の明確な境界線
プロジェクト体制の第一原則は、各役割の境界を明確に定義することです。曖昧な役割定義は、責任の押し付け合いや作業の重複を生みます。
プロジェクトでは一般的に、プロジェクトマネージャー(PM)、プロジェクトリーダー(PL)、PMO、各種スペシャリスト、メンバーといった役割が存在します。これらの役割ごとに、意思決定の権限範囲、実行すべきタスク、報告義務を明文化する必要があります。
| 役割 | 主な責任範囲 | 意思決定権限 |
|---|---|---|
| プロジェクトマネージャー | プロジェクト全体の統括・成果責任 | プロジェクト方針決定、リソース配分 |
| PMO | 標準プロセス整備・進捗管理支援 | プロセス改善提案、リスク報告 |
| プロジェクトリーダー | 担当領域の成果物品質 | 作業割り当て、品質判断 |
| メンバー | 割り当てられたタスクの実行 | 担当作業の手法選択 |
2-2. 意思決定プロセスの階層化
効率的な意思決定には、適切な階層構造が不可欠です。すべての判断をPMが行うと意思決定が遅延し、逆に現場に丸投げすると方向性が乱れます。
意思決定は、その影響範囲と重要度に応じて階層化します。日常的な作業判断は現場レベル、リソース調整はPL・PMレベル、方針変更は上位ステアリングコミッティレベルといった形で明確に区分します。
意思決定の3階層モデル
- 戦略レベル(ステアリングコミッティ): プロジェクト方針、予算変更、スコープ変更の承認
- 戦術レベル(PM・PMO): リソース配分、スケジュール調整、リスク対応方針
- 実行レベル(PL・メンバー): 作業手順、技術選択、日次タスク優先度
2-3. 報告ラインの単純化原則
複雑な報告ラインは情報の遅延と歪みを生みます。原則として、各メンバーの報告先は一つに限定すべきです。
マトリクス組織では複数の上司を持つことになりますが、プロジェクト内では明確な報告ラインを定義します。通常はPL経由でPMへ報告する縦のライン、重要事項はPMOを通じてステアリングコミッティへ報告する横のラインといった形で整理します。
📋 報告ライン設計のポイント
- 各メンバーの直接報告先を一つに限定する
- 例外的なエスカレーションルートを明確化する
- 情報の流れを視覚化する(組織図の活用)
- 報告内容とタイミングを標準化する
2-4. 権限委譲の適切なバランス
権限の過度な集中は意思決定の遅延を招き、過度な分散は方向性の喪失を招きます。プロジェクトの規模と複雑度に応じて、適切なバランスを見極める必要があります。
小規模プロジェクト(3ヶ月未満、5名以下)では、PMが多くの権限を保持し迅速な判断を行います。大規模プロジェクト(1年以上、30名以上)では、領域ごとにPLへ権限を委譲し、PMは全体調整に専念します。
2-5. 継続的な体制見直しの仕組み
プロジェクトは常に変化します。当初の体制が最後まで最適とは限りません。定期的に体制の有効性を検証し、必要に応じて調整する仕組みを組み込みます。
フェーズ切り替え時、重大な課題発生時、人員の大幅な増減時には、体制の見直しを実施します。PMOが中心となって体制の機能評価を行い、改善提案をステアリングコミッティに上程します。
3. RACI責任分担マトリックスの実践活用
役割と責任を可視化する最も効果的なツールが、RACI責任分担マトリックスです。これはプロジェクトマネジメントの標準的な手法として世界中で活用されています。
3-1. RACIモデルの基本構造
RACIは、Responsible(実行責任者)、Accountable(説明責任者)、Consulted(相談先)、Informed(報告先)の頭文字を取ったものです。各タスクや成果物に対して、これら4つの役割を明確に割り当てます。
Responsible(実行責任者): 実際に作業を行う役割。タスクの実行に責任を持ちます。複数人でも可能ですが、明確にするため主担当を明示することが推奨されます。
Accountable(説明責任者): タスク全般の最終責任を持つ役割。ステークホルダーへの説明義務を負います。原則として1人のみ割り当てます。
Consulted(相談先): 専門知識や経験を活かしてアドバイスを提供する役割。双方向のコミュニケーションが発生します。
Informed(報告先): 進捗と成果の報告を受ける役割。一方向のコミュニケーションで情報を受け取ります。
| タスク/成果物 | PM | PMO | PL-A | PL-B | メンバー1 |
|---|---|---|---|---|---|
| 要件定義書作成 | A | C | R | C | I |
| 設計書レビュー | A | I | C | R | R |
| 進捗報告会資料 | I | R | C | C | – |
| リスク管理表 | A | R | I | I | – |

3-2. RACIチャート作成の実践ステップ
効果的なRACIチャートを作成するには、段階的なアプローチが重要です。以下の5ステップで進めます。
ステップ1: タスクと成果物の洗い出し
プロジェクトで発生する主要なタスクと成果物をすべて列挙します。WBS(作業分解図)を活用すると漏れが少なくなります。
ステップ2: 関係者の特定
プロジェクトに関与するすべての役割を特定します。組織図と照らし合わせて確認します。
ステップ3: 説明責任者(A)の割り当て
各タスクに対して、まず説明責任者を一人だけ決定します。これが意思決定の核となります。
ステップ4: 実行責任者(R)の割り当て
説明責任者の下で実際に作業を行う担当者を割り当てます。複数人でも構いませんが、調整コストを考慮します。
ステップ5: C・Iの割り当てと検証
相談先と報告先を割り当てます。過剰な割り当ては効率を下げるため、本当に必要な関係者のみに絞ります。
RACI作成時の注意点
- 説明責任者(A)は必ず各タスクに一人だけ
- 実行責任者(R)がいないタスクがないか確認
- 相談先(C)が多すぎると意思決定が遅延する
- 報告先(I)は情報伝達の効率性を考慮して選定
3-3. よくある失敗パターンと対策
RACIチャート活用時によく見られる失敗パターンとその対策を紹介します。
失敗パターン1: 説明責任者の複数割り当て
一つのタスクに複数の説明責任者(A)を割り当てると、責任の所在が曖昧になります。必ず一人に限定し、複数人の関与が必要な場合は相談先(C)として位置づけます。
失敗パターン2: すべてを網羅しようとする
細かすぎるタスク分解はRACIチャートを複雑化させます。重要なマイルストーンと成果物に絞って作成します。
失敗パターン3: 作成後の更新を怠る
プロジェクト開始時に作成したRACIチャートを更新せず、実態と乖離することがあります。フェーズ移行時や体制変更時には必ず見直します。
✅ 成功事例:Fichtner社による中東水道会社のPMO再構築
ドイツのエンジニアリング企業Fichtnerは、中東の大手水道会社に対してPMOの再構築を支援しました。各部門に分断されていたプロジェクト管理を見直し、スケジュール管理・データ可視化ツールを組み合わせた情報基盤を導入。戦略方針と現場運用の接続を強化し、プロジェクト全体の統制と意思決定の質を向上させました。この取り組みは、PMIの「Project Excellence Award」を受賞しています。
出典:Fichtner Case Study (2023)
4. 意思決定プロセスの標準設計
プロジェクトの成否を分ける重要な要素が、意思決定のスピードと質です。適切な意思決定プロセスの設計が、プロジェクトの推進力を生み出します。
4-1. 意思決定の3階層モデル
効率的な意思決定には、判断事項を影響範囲と重要度によって階層化することが重要です。すべての判断を同じレベルで処理すると、重要な決定が遅れ、些細な事項に時間を浪費します。
戦略的意思決定(ステアリングコミッティレベル):
プロジェクトの方向性や投資判断に関わる重大な決定。月次または四半期で実施します。例として、プロジェクトスコープの大幅変更、予算の追加承認、外部リソースの大量投入などが該当します。
戦術的意思決定(PM・PMOレベル):
プロジェクト運営の効率化や最適化に関する決定。週次または隔週で実施します。例として、リソース配分の調整、スケジュールの微調整、中程度のリスク対応策などが該当します。
実行レベルの意思決定(PL・メンバーレベル):
日常的な作業遂行に関する決定。日次またはリアルタイムで実施します。例として、作業手順の選択、技術的な実装方法、タスクの優先順位付けなどが該当します。
意思決定権限の境界線明確化
各階層で決定できる事項の境界線を明確にすることで、エスカレーションの迷いがなくなります。金額基準、影響範囲、スケジュール変動幅など、定量的な判断基準を設けることが効果的です。
4-2. ステアリングコミッティの運営
ステアリングコミッティは、プロジェクトの最高意思決定機関です。適切な運営が、プロジェクト全体の方向性を決定づけます。
参加メンバーの選定基準:
経営層代表、事業部門代表、IT部門代表、外部パートナー代表など、重要なステークホルダーの意思決定権者で構成します。人数は意思決定の効率性を考慮し、5~7名程度に抑えます。
開催頻度と議題設定:
通常は月次開催が標準です。議題は、プロジェクト全体の進捗報告、重大リスクと対応策、スコープ・予算・スケジュールの変更承認、次フェーズへの移行判断などに限定します。
意思決定の記録と共有:
決定事項は議事録に明記し、24時間以内にプロジェクト全体に共有します。決定の背景、理由、影響範囲を明確に記録することで、後の検証や類似判断の参考とします。
| 議題カテゴリ | 承認事項例 | 判断基準 |
|---|---|---|
| スコープ変更 | 新機能追加、要件削除 | 投資対効果、戦略整合性 |
| 予算変更 | 追加予算承認、配分変更 | ROI、予算執行状況 |
| スケジュール変更 | 納期延期、フェーズ再編 | ビジネスインパクト、リスク評価 |
| リソース変更 | 大幅な人員追加・削減 | 要員確保可能性、コスト妥当性 |
4-3. エスカレーションルールの確立
問題や課題が発生した際、どのタイミングで誰にエスカレーションするかのルールが曖昧だと、対応が遅れて問題が深刻化します。
エスカレーション基準の設定:
影響度(低・中・高)と緊急度(低・中・高)のマトリクスで判断基準を設けます。影響度高かつ緊急度高の事項は即座にPMへエスカレーション、PMが判断困難な場合は24時間以内にステアリングコミッティへ上程します。
エスカレーションパスの可視化:
組織図にエスカレーションルートを明示します。通常ルートと緊急時ルートを分けて定義し、緊急時は階層を飛び越えた直接連絡を許可します。
⚠️ エスカレーション遅延の防止策
- 「報告したら評価が下がる」という心理的障壁を取り除く
- 早期エスカレーションを評価する文化を醸成する
- 定量的な判断基準で迷いを排除する
- エスカレーション後の対応プロセスを明確化する
5. 効果的な会議体設計の実践
プロジェクトコミュニケーションの中核となるのが会議体です。適切な会議体設計は、情報共有と意思決定のスピードを大幅に向上させます。
5-1. 会議体設計の基本原則
会議体とは、特定の目的や意思決定のために同じメンバーで複数回開催される会議の集合体を指します。単発の会議とは異なり、継続性と一貫性が重要です。
会議体設計の3原則:
原則1: 目的とゴールの明確化
各会議体の目的を明確に定義します。「情報共有」「意思決定」「課題解決」「進捗確認」など、会議の主目的を一つに絞ります。目的が複数混在すると、議論が散漫になり効率が低下します。
原則2: 必要最小限の設計
会議は時間コストが高い活動です。本当に必要な会議体のみを設計し、不要な会議は思い切って削除します。一つの会議体で複数の目的を達成できないか検討します。
原則3: 明確な決定権の所在
各会議体で「誰が最終決定を下すのか」を明確にします。全員合意が前提の場合は、合意形成できない場合の決定方法も事前に定めておきます。
| 会議体種別 | 主な目的 | 開催頻度 | 参加者 |
|---|---|---|---|
| ステアリングコミッティ | 重要事項の意思決定 | 月次 | 経営層、事業部門長、PM |
| 全体進捗会議 | 進捗共有と課題報告 | 週次 | PM、PMO、全PL |
| チーム定例会 | チーム内調整と情報共有 | 週次または隔日 | PL、担当メンバー |
| ワーキンググループ | 特定課題の検討と解決 | 不定期(必要時) | 課題関連メンバー |

5-2. 階層別会議体の設計パターン
プロジェクトの規模に応じて、会議体を階層化することで効率的な情報流通を実現します。
小規模プロジェクト(10名以下):
全体会議(週次)とステアリングコミッティ(月次)の2階層で十分です。全員が同じ情報を共有でき、意思決定も迅速です。
中規模プロジェクト(10~30名):
ステアリングコミッティ(月次)、PM・PL会議(週次)、チーム定例会(週次)の3階層が標準です。情報の伝達経路を明確にし、各階層の役割を定義します。
大規模プロジェクト(30名以上):
ステアリングコミッティ(月次)、全体進捗会議(隔週)、領域別定例会(週次)、チーム定例会(週次)の4階層以上が必要です。横断的な課題対応のためのワーキンググループも適宜設置します。
会議体設計における情報伝達の原則
下位会議体の決定事項や重要情報は、必ず上位会議体へ報告します。逆に、上位会議体の決定事項は、速やかに下位会議体へ伝達します。この双方向の情報流通が、組織全体の整合性を保ちます。
5-3. 会議運営の効率化テクニック
会議体を設計しても、運営が非効率では意味がありません。効果的な会議運営のための実践テクニックを紹介します。
アジェンダの事前共有:
会議の24時間前までにアジェンダと関連資料を共有します。参加者が事前に内容を把握し、準備できるようにします。アジェンダには、各議題の目的(情報共有/意思決定/ブレインストーミング等)と所要時間を明記します。
タイムボックスの厳守:
各議題に時間枠を設定し、タイムキーパーを置きます。予定時間を超過する場合は、別途時間を設けるか、次回に持ち越します。会議の延長は参加者の生産性を著しく低下させます。
決定事項の即時記録と共有:
会議中に決定事項をリアルタイムで記録し、会議終了後1時間以内に議事録として共有します。決定事項、担当者、期限を明確に記載し、次回会議で進捗を確認します。
📋 効果的な会議運営チェックリスト
- ☐ 会議の目的とゴールが明確
- ☐ アジェンダが24時間前に共有済み
- ☐ 必要な参加者のみが招集されている
- ☐ ファシリテーターとタイムキーパーが決定
- ☐ 議事録担当者が決定
- ☐ 会議室・Web会議環境が準備済み
- ☐ 前回の決定事項フォローアップを確認
6. プロジェクト規模別の体制パターン
プロジェクトの規模によって、最適な体制構造は大きく異なります。ここでは、規模別の標準的な体制パターンを解説します。

6-1. 小規模プロジェクト体制(3~6ヶ月、5~10名)
小規模プロジェクトでは、シンプルな体制が効率的です。過度に複雑な体制は、かえってコミュニケーションコストを増大させます。
基本構成:
プロジェクトマネージャー1名が全体を統括し、2~3名のリーダーが機能別または工程別チームを率います。PMOは専任ではなく、PMまたはリーダーが兼務することが一般的です。
意思決定構造:
日常的な判断はPMが迅速に行い、重要事項のみステアリングコミッティ(月次)で承認を得ます。階層は最小限に抑え、PM直下で各リーダーが動きます。
会議体:
全体定例会(週次)とステアリングコミッティ(月次)の2つで十分です。チーム人数が少ないため、全員参加の会議でも効率的に運営できます。
6-2. 中規模プロジェクト体制(6ヶ月~1年、10~30名)
中規模プロジェクトでは、専任PMOの設置を検討すべきタイミングです。また、領域やチームの分割が必要になります。
基本構成:
PM1名の下に、PMO1~2名、PL3~5名、メンバー10~25名を配置します。PLは機能別(業務設計、システム開発、インフラ等)または工程別に分担します。
意思決定構造:
PM・PL会議(週次)で戦術的判断を行い、ステアリングコミッティ(月次)で戦略的承認を得ます。各PLには一定の権限を委譲し、チーム内の判断はPLが行います。
会議体:
ステアリングコミッティ(月次)、PM・PL会議(週次)、チーム定例会(週次)の3階層が標準です。必要に応じて、領域横断の課題対応ワーキンググループを設置します。
| 役割 | 人数 | 主な責任 |
|---|---|---|
| PM | 1名 | プロジェクト全体統括、ステークホルダー調整 |
| PMO | 1~2名 | 進捗管理、リスク管理、標準プロセス整備 |
| PL(業務設計) | 1名 | 業務要件定義、業務プロセス設計 |
| PL(システム開発) | 1~2名 | システム設計、開発、テスト |
| PL(インフラ) | 1名 | インフラ設計、構築、運用設計 |
| メンバー | 10~25名 | 各領域の実作業 |
6-3. 大規模プロジェクト体制(1年以上、30名以上)
大規模プロジェクトでは、本格的なPMO組織の構築と、多層的な体制設計が必須です。
基本構成:
PM1名の下に、PMO組織(3~5名)、サブPMまたはプログラムマネージャー2~3名、PL5~10名、メンバー30名以上を配置します。複数のサブプロジェクトやワークストリームに分割して管理します。
意思決定構造:
ステアリングコミッティ(月次)、PM・サブPM会議(週次)、領域別定例会(週次)、チーム定例会(週次)の4階層で運営します。各階層の権限範囲を明確に定義し、エスカレーションルートを複数設けます。
PMO組織の役割:
大規模プロジェクトでは、PMOが重要な機能を担います。進捗管理、リスク管理、課題管理に加えて、標準プロセスの整備、ツール導入、品質管理、教訓管理なども実施します。
大規模プロジェクトにおけるPMOの3つの機能
- 支援機能: PMやPLの業務支援、レポート作成、会議運営サポート
- 統制機能: 標準プロセス遵守の監視、品質ゲート管理、リスク監視
- 指導機能: ベストプラクティス展開、メンバー育成、ツール教育
7. 体制運用における実践的ポイント
優れた体制を設計しても、運用が適切でなければ効果は発揮されません。ここでは、体制を機能させるための実践的なポイントを解説します。
7-1. キックオフでの体制共有の重要性
プロジェクトキックオフは、体制を全員に浸透させる最重要機会です。ここで十分な時間を取って説明することが、後のトラブル防止につながります。
キックオフで共有すべき体制情報:
組織図と各人の役割、RACIチャート(主要成果物のみ)、意思決定プロセスとエスカレーションルール、会議体一覧と各自の参加会議、コミュニケーションツールとルールを明示します。
理解度の確認方法:
単に説明するだけでなく、質疑応答の時間を十分に取ります。特に、「自分の役割と責任」「困ったときの相談先」「報告すべき事項と報告先」については、全員が理解しているか個別に確認します。
文書化と常時参照可能化:
キックオフで説明した内容は、プロジェクト計画書や体制図として文書化し、プロジェクト共有フォルダに格納します。いつでも誰でも参照できる状態を維持します。
7-2. 定期的な体制の有効性レビュー
プロジェクトの進行に伴い、当初の体制が最適でなくなることがあります。定期的に有効性を検証し、必要に応じて調整します。
レビューのタイミング:
フェーズ移行時(要件定義→設計、設計→開発等)、人員の大幅な増減時、重大な課題や遅延が発生した時、四半期ごとの定期レビューで体制の機能を評価します。
評価の観点:
意思決定のスピード(遅延している事項はないか)、コミュニケーションの円滑さ(情報伝達に問題はないか)、役割分担の適切さ(過負荷・手持ち無沙汰はないか)、会議体の効率性(無駄な会議はないか)を確認します。
改善アクションの実行:
課題が特定されたら、速やかに改善アクションを実行します。体制変更が必要な場合は、ステアリングコミッティで承認を得た上で、全メンバーに周知します。
📋 体制レビューのチェックポイント
- 意思決定が遅延している案件はないか
- 特定のメンバーに業務が集中していないか
- 報告や承認プロセスに無駄はないか
- 会議の参加者は適切か(多すぎ/少なすぎ)
- エスカレーションが適切なタイミングで行われているか
- チーム間の連携に問題はないか
7-3. 体制変更時のコミュニケーション
体制変更は混乱を招きやすいため、慎重かつ明確なコミュニケーションが必要です。
変更の背景と目的の説明:
なぜ体制を変更するのか、その背景と目的を明確に説明します。「現状の課題」→「変更内容」→「期待される効果」という流れで説明すると理解が得やすくなります。
影響範囲の明示:
誰の役割が変わるのか、報告ラインがどう変わるのか、会議体に変更はあるのかを具体的に示します。変更がない部分も明示することで、不要な混乱を防ぎます。
移行期間の設定:
大きな体制変更の場合は、1~2週間の移行期間を設けます。この期間に新旧両方の体制を並行させることで、スムーズな移行を実現します。
8. 結論:体制構築の実践と継続改善
プロジェクト体制の構築は、プロジェクト成功の基盤です。役割と責任を明確化し、意思決定プロセスを整備し、効率的な会議体を設計することで、プロジェクトは円滑に進行します。
重要なのは、完璧な体制を最初から作ろうとするのではなく、基本原則に基づいて設計し、運用しながら継続的に改善していくことです。PMI日本支部のPMO研究会調査が示すように、多くの企業が「教訓が次のプロジェクトに活かされていない」という課題を抱えています。体制設計のノウハウを組織の資産として蓄積し、次のプロジェクトへ展開することが重要です。
今日から始める体制構築の第一歩
本記事で紹介した手法は、すぐに実践できるものばかりです。まずは、現在のプロジェクトの役割分担をRACIチャートで可視化してみてください。そして、意思決定のボトルネックがどこにあるかを特定し、会議体の目的を再定義してみてください。
プロジェクト体制の改善は、一朝一夕には完成しません。しかし、基本原則を理解し、小さな改善を積み重ねることで、確実にプロジェクトの成功確率は高まります。
プロジェクト体制構築でお困りの際は、当社のPMOコンサルティングサービスをご活用ください。大手企業での豊富な実績をもとに、貴社プロジェクトに最適な体制設計を支援いたします。



