当社のPMOコンサルタントが、社内システムの基本設計をAIエージェントで検討しました。株式会社オーシャン・コンサルティングが社内で実際に手を動かした記録です。JUASの調査では、AIエージェントは「検討中」が1位の31.2%、導入済みは7.1%です。
AI側に作ったのは、1ロール1枚のMarkdown定義と、7段階の実行順。実装と承認は別チームです。延べ33回動かしても、人が判断しなければ前に進まない事項は11件残りました。発生しなかったのは、そこへたどり着くまでの日程調整と読み合わせです。
- ✓社内システムの基本設計で、AIをどう組み立てたかの全体像
- ✓定義本文に書いた3項目(役割/保有スキル/必須出力項目)
- ✓各ロールが実際に出した指摘と、それが設計をどう変えたか
- ✓合意済みの結論を壊す「敵対的検証」を後段に置く意味
- ✓統合役のPMOエージェントに何を渡し、何の形で返させたか
- ✓それでも人に残った「11の判断」の中身と、その読み方(IPA・JUAS)
1. 当社が社内でやったこと ── 何を作り、AIに何を作らせ、どうなったか
先に全体を出します。作ろうとしたのは、社内の申請業務をワークフロー化する社内システムの基本設計です。
動かしたのは当社のPMOコンサルタント1人。ただし賄ったのは基本設計の検討で、実装も承認も別ラインです。
1-1. 作ろうとしたもの、動かした人
基本設計は、要件定義で決まった「何を実現するか」を「どういう構造で実現するか」へ落とす工程です。コードを書く詳細設計と実装は、この後に続きます。
実際に扱ったのは、社員が申請し、上長が承認し、管理部門が確認し、完了履歴を残す流れです(具体は伏せます)。通常なら各担当が観点を持ち寄り、分科会を何度も回す規模になります。
その検討役を分けたのが、AIエージェントです。AIエージェントとは、目的を与えると自分で手順を分解し、道具を使って作業を進めるAI。1往復で答えを返すチャットとは違います。
賄ったのはシステムそのものではなく、設計を決めるための検討リソースです。
PMOという言葉も、決定ではなく決定を支える枠組みを整える役の意味で使います(混同されがちなPMOとPMの違いと連携)。
1-2. AI側に作ったもの ── 13枚のMarkdownと7段階
使ったのはClaude Code のサブエージェント機能。親の進行役から個別タスクを与えられて起動する子エージェントです。
進行役が分科会メンバーを1人ずつ呼び出すようなもの。ただし呼ぶたびに新しく席に着くので、前の会議の話は持っていません。
作り方は拍子抜けするほど単純です。Markdownファイル1枚が、1ロール。13の役割を13枚のテキストに書き分け、.claude/agents/ に置くだけで呼び出せます。
正確には、冒頭に YAML frontmatter(名前や説明を書くメタ情報)を置き、その下の本文に中身を書きます。今回はその定義本文を、役割・保有スキル・必須出力項目の3つに絞りました。
回し方は7段階。同じロールを段階ごとに呼び直すので、13ロールでも起動は延べ33回です。
| 段階 | 起動 | させたこと |
|---|---|---|
| ① 事実収集 | 4体 | 4テーマ並列で、前提となる事実を集める |
| ② 初回分析 | 8体 | 8ロール並列で、観点ごとに論点を出す |
| ③ 相互レビュー | 8体 | 同じ8ロールを再起動し、反論と対案を出させる |
| ④ 論点収束 | 9体 | 統合ロールを調停役として登板させ、対立点を決着 |
| ⑤ 敵対的検証 | 3体 | 合意された設計を壊す方法を探す |
| ⑥ 統合(PMO) | 1体 | 重複を排除して裁定し、5つの形に構造化 |
| ⑦ 執筆 | 0体 | 分担させず、人が一本化して書く |
①から③は1体ずつ順番にではなく、並列で同時に走らせています。8つの観点が一度に出そろうため、往復待ちがありません。PMO1人で分科会相当を賄えたのは、ここが大きい。④の調停役も14番目のロールではなく、統合ロールの先行登板です。
⑦が0体なのは、章ごとに割り当てたら文体と粒度が割れたからです。材料出しまでを任せ、まとめは分けない。
制約も見えました。起動が延べ33回に達した時点でセッションの上限(一度に扱える分量)に触れ、処理が止まったのです。各段階の結果を保存していたので、段階実行へ切り替えて復旧できました。

図1:討議の体制は4つの層に分かれ、上から順に実行する。
1-3. 結果 ── 決定140件・課題75件・リスク30件、人の判断11件
数字の範囲を先に閉じます。以下は基本設計工程における当社内の実測カウントで、第三者の検証を経た値ではありません。件数は対象業務の複雑さで変わります。
単位も分けておきます。ロールは役割定義の種類数、体は1回ぶんの起動。33体が同時に走ったわけではありません。
討議を統合した結果は、決定事項140件・課題75件・リスク30件に構造化されました。最終確認は人が行っています。そして「人が決めるしかない」と判定された事項が、11件です。
140件と11件は「140のうち11」ではない。決定事項の一覧と、人の判断を要する事項の一覧は別々の管理表である。差し引いた残りをAIが決めた関係にはなく、割合では語れない。
11件の中身は書けませんが、種類なら4つ。本記事ではまとめて「11の判断」と呼びます。
誰を巻き込むか。情報システム部門だけで決めるか、業務部門の課長まで通すか。AIは巻き込むべき部署を列挙できます。ただし誰の顔を立てるか、どこで揉めるかは組織の事情。列挙と選択のあいだに、越えられない線があります。
いつから動かすか。期初に合わせるか、繁忙期を外して半年遅らせるか。技術的にはどちらも可能で、長短の整理までは返ってきます。決め手は他施策との重なりと、現場が変更を受け止められる時期。どちらも設計書の外にあります。
どれだけ工数を割けるか。運用に1日30分を充てられるのか、週1回が限界なのか。ここが決まらないと、点検や監視をどこまで載せるかが決まりません。人の空き具合は他業務との綱引きで、設計の中からは導けません。
どこまで許容するか。手作業の残る運用を受け入れるか、作り込んで自動化するか。AIは選択肢と代償を並べます。どこまでの不便を引き受けるかは、引き受ける人が決めること。他人が決めた設計は、運用開始後に覆ります。
日程調整も読み合わせも議事起こしも宿題待ちも、この進め方では発生しませんでした。それでも、判断すべき事項のほうは残っています。
直近の案件で、この4種類は結局どなたの手元に残っていたでしょうか。

図2:1つの討議から、2つの成果物が並行して出る。
2. 定義ファイルに何を書いて渡したか
ロールを13に分けただけでは、何も起きません。分けた先の1枚に何を書くか。書いたのは3つで、3つ目の必須出力項目がいちばん効きました。
2-1. 1ロールの中身は3項目 ── 役割・保有スキル・必須出力項目
役割は1〜2行。「何を見る人か」だけを書きます。長いほど焦点がぼやけ、どの観点にも薄く触れる出力になります。
保有スキルは箇条書きで4〜5点。「何を知っている前提の人か」を並べます。書かないと発言が一般論に下がり、書きすぎると範囲の外を見なくなる。
必須出力項目は、何を必ず返させるかの指定。全ロール共通で1項目を足しました。「過剰設計の指摘」です。自分の提案だけでなく、他ロールの案が重すぎないかを毎回指摘させます。
これがないと、8つの「最善」が足し算になります。セキュリティ役は最も堅い構成、運用役は最も手厚い監視、データ設計役は最も汎用的なモデル。合計すると回りません。
書き下ろすと、1枚はこうなります。運用担当の定義本文です。
役割:作った人が運用するとは限らない前提で、少人数体制で日々回るかどうかを見る
保有スキル:運用設計/監視と失敗検知/障害切り分けと手動リカバリ/引き継ぎと属人化の排除
必須出力:運用上の課題/過剰設計の指摘/代替案/人の判断が必要な事項
共通の必須出力を1つ足すだけで、互いに重さを指摘し合う関係ができました。削るべきもの15項目が挙がっています。指摘を3つ。
| ロール | 出した指摘 | 設計をどう変えたか |
|---|---|---|
| UI/UX・アクセシビリティ | 色だけの信号は、毎朝の判断には使えない | 色付きの丸で示す案をやめ、文字入りのバッジに変えた |
| 運用 | 見に行く場所を増やすことが、少人数運用では最大のコスト | 通知先を用途ごとに分けない判断につながった |
| 業務プロセス | 途中まで実施して中止すると、宙に浮いた状態が残る | 取下げ範囲を限定し、どこから戻せないかを明示した |
3つに共通するのは、正しさの指摘ではないこと。どれも「正しいが、この現場では回らない」形です。1体に全部聞けば答えは返りますが、立場が1つなので衝突しません。皆さまの現場では、誰がこの観点を持っていますか。
2-2. 全ロールに同じ3行を課す ── 最上位制約
今回は、放っておくと必ず重い側へ振れました。もう1つ打った手が最上位制約。全ロール共通で課す、破ってはならない前提条件です。
趣旨はこうです。少人数で運用する仕組みである。大規模組織向けの設計を持ち込まない。運用できない設計は、正しくても失敗である。
この3行を、13枚すべての冒頭に置きました。効いたのは3行目です。正しさが失敗になり得ると先に宣言すると、「堅くすべき」ではなく「この人数で回せる範囲で堅くする」に寄ります。
なお、運用に割ける人手はプロジェクトの前提であり、PMOが決めた制約ではありません。
2-3. 討議の前に配る「事実カード」
呼ぶたびに新しく席に着く相手です。前提を渡さずに走らせると、各ロールは学習時点の一般論で語り始めます。怖いのは議論が噛み合って見えること。前提が違えば、実装で崩れます。
これを防ぐため、討議前に全ロールへ短い資料を配りました。事実カードと呼びます。一般的な手法名ではなく、この案件でそう呼んだ社内用語です。
中身は3点セット。事実、出典URL、この設計への含意です。3つ目が肝でした。事実だけ配ると各ロールが自分の都合で解釈します。「設計に何を強制するか」まで書けば、ぶれが消えます。
確認できなかったものは「未確認」と書き、確認方法をセットで残します。土台が未確認だと見えていれば、そこから結論は出ません。
相互レビューの指示文にも禁止事項を入れました。「すでに出ている指摘の焼き直しは書くな」「反論には必ず対案を」の2つ。これがないと、言い換えだけの出力で議論が水増しされます。
何をAIに入力してよいかも、討議前に決め切りました。走りながらだと境界が緩みます。
| 情報の種類 | 入力の考え方 |
|---|---|
| 公開済みの業務説明 | 入力しやすい |
| 社内手順書 | 許可された環境のみ |
| 顧客名・個人名 | 原則マスキング |
| 金額・契約条件 | 必要最小限に加工 |
| 認証情報・パスワード | 入力禁止 |
| 個人情報 | 原則入力禁止・社内規程に従う |
実際の線引きは、自社の情報セキュリティ方針を優先してください。
図3:13枚の定義ファイルは、この7段階の順で呼び出される。
3. 合意を疑う役を、工程として埋め込む
相互レビューの出力を読んで、気づいたことがあります。反論はたくさん出ているのに、前提そのものを壊しにいく指摘が1件もなかったのです。
3-1. 専門ロールの討議は「良い設計を作る」方向にしか働かない
反論はすべて「こう直せばもっと良くなる」形でした。当然です。各ロールには「良い設計を作れ」という目的があり、前提を壊せば自分の提案も崩れます。
品質を上げる力は働いても、合意を疑う力は働きませんでした。起動を重ねても出てこない。8体が議論した結論は、それらしく見えます。見えるからこそ危ない。
予防的に品質を作り込む発想は、プロジェクト管理で確立されています(PMOが実践する品質管理・品質保証の体系的アプローチ)。同じ発想を討議へ持ち込みました。
3-2. 3体に与えた任務と、覆った4件
そこで、討議の後段に検証専用の工程を置きました。敵対的検証です。合意済みの結論に対し、あえて反証側から前提を突き崩す工程を指します。
置いたのは3ロール。まず1枚目の定義本文です。形は運用担当と同じ3項目、必須出力だけが違います。
役割:攻める側に回り、承認を経ずに権限を得る方法や記録を書き換える方法を、具体的な手順として組み立てる
保有スキル:権限の抜け道/操作記録の残り方と消え方/内部者による不正の典型/検知をすり抜ける経路
必須出力:破り方の手順/それが成立する前提条件/気づける仕掛けの有無(改善提案は書かせない)
直し方まで書かせると、破り方の説明が甘くなります。攻める側と直す側を、同じ1体に兼ねさせない。
残る2ロールの任務です。
| ロール | 与えた任務 |
|---|---|
| 第三者レビュー役 | 証跡の提示を求め、求めても出てこないものを見つける |
| 運用崩壊シナリオ担当 | 稼働6か月後に使われなくなっている状況を描き、崩壊を防ぐ仕掛けを提案する |
結果、合意済みだった結論のうち4件が覆りました。うち1件は設計の骨格を変えるもの。討議では、8ロールの誰も引っかからなかった箇所です。
4件の中身は書けませんが、共通する性質なら書けます。どれも「設計が間違っている」のではなく、「設計が想定していない状況」を突かれたものです。
型はこうです。正常に使う人だけを前に置いた設計に、わざと外れた使い方をする人を立たせる。1度で終わる前提の手続きに、途中で人が入れ替わる状況を置く。3か月後に振り返る想定の記録に、その場で説明を求める相手を置く。
いずれも設計の中身は否定していません。「そんなことは起きない」と黙って置かれていた前提のほうを、外側から崩しています。改善を競い合う限り、想定は誰の攻撃対象にもなりません。
この4件は「4件も間違えていた」ではなく、実装に入る前に4件を拾えた、という事実です。実装後なら、手戻りの規模はまったく違いました。
敵対的検証を入れれば手戻りを確実に防げる、という話ではない。壊す側が見ていない領域の穴は残る。言えるのは、前提の弱い箇所を早期に洗い出しやすくなるところまで。

図4:専門ロールの合意までは同じでも、その先で気づけるかどうかが分かれた。
3-3. 1人で回すからこそ、レビュアーを「構造」で用意する
設計レビュー会があれば、他部署の誰かが「その前提おかしくないですか」と言ってくれます。人数の価値は、視点の数より疑う人がいること。1人で回すとこの目が消えます。
だから、意志ではなく工程で解決しました。討議の後に必ず通す順序として固定する。埋め込めば、疲れていても飛ばせません。ご自身の結論を、自分で壊しにいったことはあるでしょうか。
討議 → 合意 → 検証 → 統合の順に固定し、検証を飛ばせない位置に置く。工程表に載っていないレビューは、忙しくなった瞬間に消える。▶ オーシャン・コンサルティングのPMO支援実績・特徴はこちら
4. PMOエージェントに何をさせたか
AIを増やしても、PMOの仕事は残りました。討議の量が増えるほど、何を人の判断に上げるかを決める作業が重くなる。それをさせたのが13枚目、統合役のPMOエージェントです。
4-1. 何を渡し、何を禁じ、何の形で返させたか
入力は全ロールの出力すべて。初回分析から敵対的検証まで、段階ごとにファイルへ落としたものをまとめて読ませました。
課したことは4つ。重複を排除する、対立を裁定する、玉虫色で逃げない、判断軸の順位に従う。「まとめて」と頼むと要約が返り、論点が絞り込まれません。
いちばん効いたのは出力の形の指定。返してよい形を5つに固定しました。
| 出力の分類 | そこへ載せるもの | 今回 |
|---|---|---|
| 決定事項 | 決着した事項と、受け入れるデメリット | 140件 |
| 課題 | 未決だが、担当と期限を置けば進む事項 | 75件 |
| リスク | 起きるかが不確定で、監視が要る事項 | 30件 |
| 人が判断すべき事項 | 人が決めなければ、前に進まない事項 | 11件 |
| 章立て | 上記を設計書の目次順に並べ直したもの | ― |
この4つは同じ母集団の内訳ではなく、別々の一覧として出力させています。行き先を先に決めると、統合が「分類」になります。決めずに頼むと、決着した話と未決の話が混ざります。
いちばん重いのは4つ目。ここへ上げるかの判定こそ、この設計の要でした。
境目は、追加で調べれば答えが出るかどうかに置きました。調べれば出るものは課題へ回し、担当と期限をつける。調べても出ないもの、誰かが責任を引き受けないと動かないものだけを4つ目へ上げます。
「判断が難しいから」ではなく「情報を足しても解けないから」で分ける。難易度で分けると、調べれば済む話まで人の手元に積み上がるからです。
4-2. 課した2つの縛り
1つ目は玉虫色の決定の禁止。どちらとも読める曖昧な決着です。2案の良いところを並べ、どちらも尊重する。読むと納得しますが、何も決まっていません。
2つ目は、受け入れるデメリットの明記。「書け」だけでは足りず、書式まで指定しました。決定の中身、デメリットの中身、想定頻度、起きたときの対処。この4つで1件とします。
頻度と対処まで書かせるのは、省くと記載が免罪符になるからです。「承知のうえです」の一行では、何をどこまで承知したか分かりません。
4-3. 判断軸に順位をつける
AIを人の組織にどう組み込むか。その設計論はAIエージェント時代のPMO|人と自律型AIの分業・ガバナンス設計にまとめました。本記事はそれを社内案件で走らせた記録です。
走らせて分かったのは、軸を並べるだけでは足りないこと。2案がどちらも軸を満たすと、順位がなければ議論が止まります。
そこで、討議前に5段階の優先順位を文書で確定させました。中身を発明したわけではありません。運用に割ける人手も追加費用の許容範囲もプロジェクトの前提で、裁定に使える形へ書き起こしただけです。
-
1
必須要件を満たすか。満たさない案は、他がどれだけ優れていても採らない
-
2
少人数で運用できるか。重い設計を自動的に不利にするため、あえて2番目に置いた
-
3
追加コストが不要か。費用が発生する案は、しない案に劣後する
-
4
内製で実装可能か。外部に依存すると、変更のたびに時間と費用がかかる
-
5
将来の拡張性。4つで並んだときの、最後の判定材料に置いた
順位を先に決めると、裁定が速くなります。「どちらが良いか」ではなく「どちらが上位の軸を満たすか」を見るだけで済みます。
順位そのものも、PMOが独自に決めたわけではありません。
4-4. PMOの仕事は「決めること」ではなく「決める対象を絞ること」
統合ロールにさせたのは、決めることではありません。140件の決定にも11件の判断にも、最終確認は人が入っています。基本設計を確定させる権限は、業務オーナーと所管部門にあります。
PMOが提供したのは、論点と判断軸と決定記録の枠組みです。統合ロールは、それを機械的に当てはめる役でした。
絞り込みの本質は、判断を減らすことではなく判断に上げるものを選ぶことです。11件が並んだから楽になったのではなく、11件に向き合う準備が整った。いまのプロジェクトで、決める順序は文書になっていますか。
全ロールの出力を渡し、5つの形に構造化させた。玉虫色を禁じ、デメリットは頻度と対処まで書かせる。担うのは決定ではなく、枠組みの提供である。
5. 結論:AIが増やせるのは検討の量であって、決める人ではない
先に、この記録で言えないことを書きます。AIを使わなかった場合に人の判断が何件だったかは、測っていません。比較する相手がない以上、「人の判断は減らない」とまでは言えない。言えるのは、延べ33回動かしても11件が残った、というところまでです。
そのうえで、見立ては書けます。残った4種類は、どれも調べれば答えが出る類ではなく、責任の引き受け方に紐づいています。だから起動回数を増やしても消えないだろう、と見ています。実証ではなく、見立てです。
公的な調査も見ておきます。IPAの「DX動向2026」は、AI導入で効果があったと答えた企業に内容を尋ねています。最も多いのは「業務が効率化・迅速化した」で91.6%、「売上や利益が向上した」は3.9%でした。
IPAはこの結果を、AI導入の効果が業務の効率化・迅速化に集中し、外向きの成果創出は限定的だと整理しています。今回も、AIが増やしたのは検討の量でした。
両者は同じものを測ったデータではありません。片方は企業への調査、片方は当社1件の内部カウント。重なるのは、AIを入れただけでは最終成果まで自動的に生まれない一点です。
5-1. 1人で回ったのは才能ではない
設計検討を賄えたのは、個人の処理能力が高かったからではありません。ロール構成、実行順序、裁定の判断軸。この3つを走らせる前に組んだからです。
ロール設計ができた理由も、AIの知識ではありません。どの観点が抜けると設計が破綻し、どの対立が後で火を噴くか。案件を回してきた経験が、13という顔ぶれを決めています。
ただ、経験がなければ組めない話でもありません。顔ぶれは手元の資料から引けます。設計レビュー会の出席者名簿、過去案件の課題管理表、リスク登録簿の分類項目。外せないのは13という数字ではなく、事実収集 → 専門 → 検証 → 統合の順序のほうだと考えています。
5-2. 明日から試すなら、この7つから
まず確認していただきたい項目です。
- ☐ 破ってはならない前提条件を、全ロールに同じ文言で置いたか
- ☐ 「過剰設計の指摘」のような共通の必須出力項目を課したか
- ☐ 一次情報から確定事実を集める工程を、討議の前に置いたか
- ☐ 合意された結論を壊す役を、後段の工程として置いたか
- ☐ 判断軸に順位をつけ、討議前に文書化したか
- ☐ その順位を、業務オーナーと合意しておいたか
- ☐ 各段階の結果を保存し、再開できる形にしたか
厚みの置き方は案件次第です。規制の厳しい領域なら検証側を、利用者が多い業務ならUI側を厚くする。ロール構成の調整もご相談ください。どの1つから試されますか。
最後にもう一度。AIを延べ33回動かしても、人が判断しなければ前に進まない事項は11件残りました。発生しなかったのは、そこへたどり着くまでの日程調整と読み合わせのほうです。AIが増やせるのは検討の量であって、決める人ではありません。
まずは1件、小さな検討から順序を組んでみてください。
大手プライム案件で培ったPMO実務の経験から、現状整理のお手伝いをいたします。
株式会社オーシャン・コンサルティングでは、PMO導入・ITプロジェクト支援に関するご相談を随時承っております。
・情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026」(2026年7月30日公表)https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html
→ 第5章で引用。図表3-14の91.6%と3.9%を、効果が業務効率化に集中する傾向として使用。・日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書 2026」(有効回答957社/当該設問 n=952)https://juas.or.jp/library/research_rpt/it_trend/
→ リード文で引用。図表8-1-1・8-1-6を、AIエージェントの導入状況の相場観として使用。
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